2.「型枠大工って?」

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 2. 「型枠大工って?」


前回に書いたがワタシは大工である兄につれられ現場デビューを果たした。

当時のワタシにとって大工といえばいわゆる住居や社寺などの木造建築を建てる職人さんのことだという知識しかなく「型枠大工」など知る由もない。

当然、大工であると聞いていた兄についていくのだから現場は木造建築でありカンナやノミを扱う「木造大工」だと思っていた。しかしいざ到着した現場は木造建築ではなく建設現場と呼ばれる場所。

「型枠大工なんて大工じゃない」世の中にはこう言う人も多くいるが、正直ワタシもそう思った。これって現場作業員やん!そう思ったのである。

ニッカポッカに地下足袋をはきパンチパーマという「いかつい」いでたちの親方はドラマで見たことのある道路工事現場のおっさんそのものであり、ワタシのイメージの中にある木箱の道具箱をひょいと肩に担ぐ小粋な大工職人とは程遠かった。現実とはそんなものである。


当時現場にて最初に支給されたのが「釘袋」「スケール」「ハンマー」「Sバール」「ホームタイ回し」この型枠大工七つ道具のうち4つ。残り3つは後々ということで。

「釘袋」とは腰ベルトにぶら下げる革製の袋で大きな二つの袋が重なって配置され、そこに45(ヨンゴ)と65(ロクゴーなぜか語尾を伸ばす)の釘を入れる。さらにベルトに付属するハンマー差しに「ハンマー」と飛ばれる金づちと「Sバール」と呼ばれるくぎ抜き「ホームタイ回し」(名前の通りホームタイと呼ばれる型枠を締め付ける長ナットみたいなものを回すハンドル工具)を差す。これが関西の型枠大工の一般的なスタイルであった。なぜ関西かというと関東や中部とは型枠の組み方に違いがあり関東大工はきっとホームタイ回しでなく「ラチェット」を装備していたと思う(定かではないが)。

この「釘袋」にいっぱいのヨンゴとロクゴーを入れさらに大量のホームタイをいれる(入れられる(今でいうパワハラ))ものだからかなりの重さで骨盤のあたりがこすれて痛かったし、ずっと大工を続けるうちに腰回りが黒ずんでくるという獲得形質を得ることになる。銭湯で腰のあたりが黒ずんでいる人はほぼ「型枠大工」と思って間違いない。

とまぁ、こうして35年前「型枠大工」の坊主(丁稚ともいう)が一人できあがった。


さてここで「型枠大工とは?」ということに触れておこう。

一言で言うなら「鉄筋コンクリート構造物・建築物におけるコンクリートを流し込むための「型枠」と呼ばれる木製の(金属やプラ製もある)枠を図面の寸法に合わせてこしらえ、図面通りに配置し、さらにコンクリートを打ち込んだ際の圧力によって型枠が崩壊しないように強固なものにするための補強、固定をし、さらにコンクリートを打ち終わった後の製品の寸法が図面通りになるよう現地で細かく調整をする」このすべてをできてはじめて「型枠大工」と呼ぶ。

じつはこの業界にもまだまだこの域に到達できてない人も多く、組み立てを出来るだけで「型枠大工」を名乗る人たちが多いのが現実である。彼らは金儲けのツールとして「型枠大工」をとらえている。

ワタシは入職当時「型枠大工なんて大工じゃない」と思ったと書いたが本物の「型枠大工」は木造大工よりとんでもなく難しいこともあり今となっては誇りをもって「ワタシは型枠大工です」と言える。

まだまだ入職35年のひよっこで修行の身ではあるが。



                         つづく



                         

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